「伝える写真」を撮るコツ!

どの家にも、よく見かける古い写真アルバムがあります。
そこには祖父母と両親の写真、わが子の成長の姿など、折々の家族の歴史がいっぱい詰まっています。中には、お宮参り、七五三、還暦や結婚記念日のようなハレの時の姿をプロの写真館で撮影した写真もあって、過去を振り返る楽しい記録です。
アルバムのページをめくりながら1枚1枚眺めていると、どの写真も被写体ときちんと向き合い、その時々の想いが込められていて、「しっかり撮っているんだなぁ」と改めて感動させられます。
かつて新潟大地震があった時、住民のみなさんの家財が失われましたが、そのおり、アルバムがなくなってしまったのがなにより悲しいと語る声に深く共感したことを覚えています。

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〈水没する村〉 2000年 神奈川県・宮ヶ瀬ダム
F11 1/30秒 コダクローム64
キヤノンEOS 1N+70-200mmF2.8L
ダムの造成によって村や暮らしが犠牲になる話は数多くある。ここでも美しい村が沈んだ。丹沢山塊への登山道にあったその村を私は昔歩いたことがあり、この地域の変わる様子を見るため時々訪れている。春の桜の頃、満開の花をつけたまま沈んでゆく木々を眺めて鳥肌の立った記憶もある。写真は最後まで残った東京電力宮ヶ瀬発電所が湖底に沈んでいく様子をとらえたもの


●「かけがえのない1枚」は何を伝えるのか

デジタルカメラが主流となった今、写真を撮る行為にもいろいろと変化が起きています。もっとも大きな変化は、「たくさん撮ってだめなものは捨てる」という手順でしょうか。
銀塩フィルム時代には考えられなかった撮り方は、写真の出来具合を確認できるという利便性をもたらしましたが、同時に「この一瞬」という被写体と向き合う緊張感を失わせました。液晶画面を気にするあまり、被写体との関係性を希薄にしてしまう怖い落とし穴が現れたのです。何回シャッターを押すことになっても、被写体の核心を捉える眼が曇らないよう心しなければなりません。

また、インターネットの普及によって、これまで家族や友人知人の間で共有していた写真が、不特定多数の人たちも見ることができるようになりました。しかも、相互のコミュニケーションの道具として撮影者の手許を離れ、独り歩きを始めるのです。
あなたの撮った写真が脚光を浴びて世界中の人たちに紹介される可能性もあるのです。したがって、「この写真で私は~を伝えたいのです」と明確なメッセージを持つことが大切です。そうでなければ、あなたの写真は意味もなく宇宙に漂う塵のようなものになってしまうことでしょう。

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〈風化〉 2005年 静岡県・富士山5合目
F8 1/125秒 フジクローム100
キヤノンEOS 1N+70-200mmF2.8L
富士の気象は厳しい。植物たちは常に強風や地すべりにさらされ、過酷な環境に耐えている。白く露出した木の根が痛ましい。自然の摂理と冷静に受け止められない風景であった。霧が出て荒々しい景色を和らげてくれた


●「伝える写真」を撮るために大切なこと

写真撮影に必要なのは「カメラ操作の技術」と「被写体と向き合う感性」のふたつと、講座で繰り返しお話してきました。
もう一度確認してみましょう。

1) 技術を駆使してしっかり撮る

ピントや露出、レンズの選択やポジション、アングルなどこれまで学んだことですが、なかでも露出の決定は写真表現の要です。
被写体を見た目どおり撮るときの目安は、次のように覚えましょう。

「白いものを白く、明るいものを明るく」撮るためにはプラス補正
「黒いものを黒く、暗いものを暗く」撮るためにはマイナス補正
個々の被写体の補正値の目安は以下のとおりです。露出補正の基本を経験値として覚えていると便利です。

人の顔は日本人の場合+1.0
青い空は+1.0
雪景色なら+2.0
樹木の濃い緑葉は-1.0

この目安を基準に持つことで、見た目どおりではなく、「ハイキーに撮りたい」、「ローキーに撮りたい」とか「この部分を強調したい」などと個性的な作品づくりのための露出コントロールも、自信をもって決定できるようになるのです。

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〈朝の調教〉 2003年 神奈川県・川崎市
F5.6 1/125秒 フジクローム100
キヤノンEOS 1N+70-200mmF2.8L
多摩川から立ち昇る霧が朝日に紅く染まって、背景に見える工場街の味気なさを消して情感が漂う。調教中の馬の姿がシルエットで浮かび上がり、柔らかな景色に緊張感を添えてくれた


2) 何が美しいのか、何に感動したのか、被写体の本質をあなたの視点でしっかり捉える

作例〈日の出の海とサーファー〉を私がどのような視点で作品化したか、その道すじを解説してみましょう。

湘南の海になぜ魅せられるのか。それは、「波と光の戯れ」が風や音とともにいつでも私の心を揺り動かすからです。その感動の源泉「波と光の戯れ」に視点を合わせ、さまざまな情景を撮影してきました。早朝の渚に寄せては返す波を霧が包み、朝の陽が霧のベールを通してやわらかに波と躍ります。この情景を幻想の世界にして表現したいと思いました。現実の色味を消して青いモノトーンで海のイメージを印象的に表現した作品です。(サーファーの出現は瞬間のアクシデントとして画面づくりによい結果となりましたが)

自然の姿を自身の都合に合わせて変えることはできませんが、イマジネーションによって見た目のままではない情景に仕上げて感動を伝えることはできます。この醍醐味にぜひ挑戦してください。

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〈日の出の海とサーファー〉 2000年 神奈川県・湘南海岸
F5.6 1/250秒 フジクローム160(タングステン用)
キヤノンEOS 1N+EF70-200mmF2.8L
霧の立ち込める渚に突然サーファーのシルエットが浮かび出た。予想しなかった情景に出合って、シャッターチャンスを逃がすまいと気持ちが焦った。私ひとりのために、海が演じてくれたこのすばらしいドラマに感謝しつつシャッターを押した


このハードとソフトの二面については、すべてこれまでの復習ですが、いざ撮影となると、頭で分かっていても手抜きをしてしまったり、忘れてしまったりと案外実践できないものです。
「カメラを向けるなら、どんな時でも手抜きをしない」ことが肝心です。このチェックポイントを常に自分に言い聞かせながら写真を撮ること。それを習慣づけるのも上達のひとつの方法です。

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〈偉大なる遺産〉 2009年 東京都・明治神宮
F7 1/100秒 ISO 400
キヤノンEOS 5DmarkⅡ+EF24-70mmF2.8L
参道に立つ大鳥居に、参拝に訪れる人はみんな感動して見上げる。太い柱を抱え込んで茶目っ気振りを発揮している外国のお嬢さん。その屈託のない姿が聖地のかたい雰囲気を和らげた。それにしても、これほど不安定な建造物がよく倒れないものだと常々思うのだが、私だけの思い過ごしであろうか


写真とコメント:塾長 古屋光雄

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